終わらざる夏

戦後70年の夏にふさわしいと思って読み始めた。

終わらざる夏 浅田次郎著 集英社

占守島(シュムシュトウ)は根室から1,200キロ離れ、カムチャッカ半島南端からは12キロの北千島の最北の小さな島(佐渡ヶ島の1/4ほど)。ここでアメリカ軍の侵攻を防ごうと精鋭の機甲部隊が満州から移されていた。アメリカは沖縄壊滅戦、さらに広島・長崎に原爆を投下してポツダム宣言を受諾させた。物語は兵役年限45歳ギリギリで召集された編集長・片岡、金鵄勲章を受けた4度目の召集の鬼熊軍曹、岩手医専から帝大医学部にいたところを召集された軍医・菊池を中心に展開する。片岡はアメリカとの降伏交渉を想定して占守島に送り込まれた通訳。ストーリーを喋っても長くなるだけなので省略。多くの人物が登場しそれぞれの過酷な終戦の夏を過ごす。「おもさげながんす」という岩手弁が心に残った。「おもさげながんす」は壬生義士伝でも印象的だった。物語はいかにも浅田調。後半の幻想的というかファンタジックな語り口はちょっと従いて行けないところがあったが、テーマは重い。
無条件降伏した日本にソ連軍が攻めてきた。ソ連は千島及び国後・択捉を自国領とし、降伏した精鋭兵・将校たちをシベリヤ抑留とし散々な目にあわせた。
折しもメドベージェフ首相の択捉島訪問。国益優先のロシアには北方領土を返還するつもりはないだろう。無条件降伏した日本にソ連軍が攻めてきたのは領土拡大のためだったから。この1点からもロシアを信ずることはできない。
今年の夏、印象に残る一冊となった。