牛と土

ずっしりと重いものが残った一冊。3.11 での帰還困難区域と居住制限区域を合わせると東京23区全体を超える広さがある。そこに取り残された牧畜牛は約3500頭。被爆した牛には商品価値がないと国は殺処分を命令した。大半の酪農家は同意したが、ある牛飼いは、「なんで殺さなきゃいけないんだ。うちの牛、何も悪いことしてないのに」と思って我が身の危険を顧みず餌やりに通う。立ち入り許可証を申請しながら。本書は、そうした牛飼いと獣医や研究者たちの苦闘のノンフィクションである。殺処分の現場、餓死や野生化の様子、牛とともに変化する土壌。被爆地の生態系研究、除染、農地の除草、里山の荒廃防止と、牛を生かす道を見いだしていく。
大方は殺処分されるが一部の牛は放れ牛となり野生牛となる。このプロジェクトに関わった人たちの努力で放れ牛を囲い(野放し状態の田んぼを柵で囲う)に入れて育てる。牛は繁茂する雑草を食べ糞をして、土を循環させ田んぼをいい状態にキープする。研究者たちは牛の被爆状態の変移を観察する。
この状況は現在進行形である。国も東電の協力は一切ない。竹島尖閣諸島の問題も重要だが、東京23区全体を超える土地を放置している状況をなんとするのか? メディアはこれを伝えていない。怒りを覚える。脱原発の気持ちがますます強まる。原発の再稼働なんてとんでもない。

牛と土 福島、3.11その後 眞並恭介著 集英社