ガン日記

ガン日記 中野孝次著 文芸春秋
「清貧の思想」以来、老子良寛論語を教えてもらった中野孝次氏の最後の著作。
食道ガンが見つかってから、入院に至るまでの経緯と心の移ろいを書いた日記。
最先端医療を誇る大病院は、病のヒトを物理的なモノとしかみない。
個人がこうありたいという気持ち、今の医療(個別差を考慮せずマニュアルどおりの医療行為)
に対する憤り、自由な病院の選択もままならないことへの怒り。
セネカ徒然草のさとりを我が物にしようとする。
医師とのやりとり、自己との対話、まわりの人々の心遣いへの感謝。
一旦は静かに死を受け入れる生活をしようとするが、それはかえって周囲を苦しめることに
なると気づき入院を決意する。
今の老人医療への警鐘、自分の命が限りあると知ったときの葛藤。
周囲のひとたちへの暖かいまなざし、愛おしさが表されている。
自分を律することができるひとと思う中野氏にあって、この心の揺らぎよう。
しかし泰然として現実を受け入れていく姿に感銘をうけた。