ロゴスの市

乙川優三郎藤沢周平を継ぐ時代小説の書き手だとばかり思っていたが、こんな現代恋愛小説も書くのだと知って驚いた。大学の英文科で一緒だったふたり、家庭環境や気質の違いから女は同時通訳に、男は翻訳家の道を歩む。ふたりに共通するのはロゴス(言葉)を紡ぎだす仕事。しかし言葉への関わり方は両極端。瞬時に日本語に変換する同時通訳と時間をかけていい日本語を見出す苦労が必要な翻訳家。せっかちな女とのんびり屋の男という設定も好対照。ロゴスを媒に付き合いは途切れない。学生時代の4人の仲間の生き方も興味深かった。なにか「されどわれらが日々」の後日譚ふうな読み方をしていた。一気に読めた。秀作。
興味深かったのは
向田邦子の「あ・うん」が日本語表現として高評価
・ジュンパ ラヒリの「停電の夜に」も
・向田が台湾の航空機事故で亡くなったが、主人公の女性も墜落事故で亡くなる
・フランクフルトのブックフェア=ロゴスの市 モーターショーで行った会場だ
・高橋治の「風の盆恋歌」を思い浮かべた
・女性の同時通訳者として米原万里田丸公美子を思いおこした

ロゴスの市 乙川優三郎著 徳間書店