狗賓童子の島

舞台は日本海に浮かぶ流刑の島・隠岐島後。主人公は西村常太郎。大塩平八郎の挙兵に連座した父・履三郎の罪により、15歳になって流刑されてきた。島の人々は常太郎を温かく迎えた。大塩の乱に連座した父の名は隠岐にまで流布していた。常太郎は医術を学び、島に医師として深く根を下ろす。チフスコレラ、麻疹といった伝染病が島に蔓延し苦闘する。背景には幕末の腐敗政治、百姓一揆、西廻り航路による商流、異国船の渡来、尊皇攘夷などなど。隠岐島後の島民は松江藩の圧政と強欲商人に苦しみ立ち上がるが、分断。幕末の混乱が描かれる。22年後に常太郎は赦免船で島を後にする。御維新といっても島民への酷政は変わらない。波乱にとんだストーリー、久しぶりに歴史小説を堪能した。
狗賓童子(ぐひんどうじ)は島の神域に棲むと言われ、若衆の中から選別され訓練を受けたものが迦楼羅(かるら)の面をつけて規律を乱す者を成敗する。
今場所の初日に白鵬から金星をあげた隠岐の海は、島後・西郷港(島の表玄関)の出身。

狗賓童子の島 飯嶋和一著 小学館