小説 若冲

メインの登場人物は伊藤若冲、義弟の市川君圭、腹違いの妹・志乃。志乃の目を通して若冲の生涯が語られる。若冲は母の嫁いびりの結果、妻の三輪を自死に追いやってしまった。義弟の君圭はそれを恨み若冲の贋作を描く。二人は互いを意識して画業を積み重ねるが、その原動力は相克。若冲は妻が自死した蔵を前に部屋に籠もる。作品は弔いなのだった。若冲ブームの中、若冲を知るのにいい本だ。なぜあの細密で極彩色の絵を描いたかに迫る。時代背景もよくわかる。池大雅、蕪村、円山応挙らも登場する。
帯に3氏のコメントが載っているが、いずれも適切。
・これは前人未到の作品である(縄田一男
・豊潤な色彩、鋭い切れ味の描線の向こうに人間の慟哭を聞く(葉室 麟)
・著者の巧みなプロットと筆力につられて一気に読み終えた(辻 惟雄)

若冲 澤田瞳子著 文藝春秋