抗うつ薬

井原 裕先生(獨協大学越谷病院 こころの診療科教授)のこの本にもっと以前に出会っていたら、僕のうつに対する考えた方は違っていただろう。
いまはほぼ安定していて抗うつ薬の世話にはなっていないが、ずいぶん長い間抗うつ薬に頼ってきた。
薬効を示す尺度をNNT(Nunber needed treat 1人を治すのに何人に投与するか)という。薬効テストでプラセボ効果で治った人を差し引くと抗うつ薬で治るのは約2割(そのことは20年前から変わっていないそうだ)。本のタイトルどおり「うつの8割に薬は無意味」ということになる。
薬漬けは、精神科医、製薬会社、患者の三位一体の結果だ。うつ病・大流行の背景には、SSRIという新薬、こころの風邪キャンペーン、メンタルクリニックの急増があるという。「悩める健康人」のうつ病化現象。僕もそこに陥ったのだけれど、脳の病気説ー神経伝達物質の不足ーからの抗うつ薬への傾斜がある。
井原先生の言うことが正しい。睡眠・覚醒リズムを安定させることが第一。人生の悩みのすべてを抗うつ薬が解消してくれるわけではない。
僕はうつのメカニズムにこだわって薬物療法が正しいと思っていた。精神科医は精神療法をしようとはしない。難しいからだ。脳の病気という口実で薬物療法に走る。
この本はメンタルクリニック精神科医には、耳の痛い話だろう。

うつの8割に薬は無意味 井原 裕著 朝日新書